2026/10/05

活版印刷だけという訳ではなく、印刷をしているとどうしても紙の端が残ります。
印刷した紙を最後のサイズに仕上げるためには断裁が必要です。大きな紙から必要な部分を切り出していけば、その周りには切れ端が出ます。
普段、そうした紙はまとめてリサイクルに出しています。
でも今回、その切れ端を「使いたい」と言ってくれる人がいました。
周防大島でアクセサリーを制作している、アトリエまりこあめさんです。
「活版印刷なら、厚い紙があるんじゃないか」
きっかけは、無印良品のイベントで一緒になったことでした。
アトリエまりこあめさんは、実は昔、中村印刷で働いていたことがあったそうです。
(私が入社する前の話です。)
そのため、印刷物をつくる過程で紙の端材が出ることを知っていました。
アクセサリーを販売するときに使う台紙。
一般的な薄い紙では少し物足りない。
そこで、
「活版印刷なら、厚い紙の端材があるんじゃないか」
と思い出してくれたようです。
イベントで一緒になったときに声をかけてもらい、活版印刷の仕事で出た紙をお渡しすることになりました。
新しい紙ではなく、あえて残った紙を使う
アクセサリーの台紙に使うのであれば、新しい紙を用意することもできます。
紙の種類を決めて、必要な大きさに切って、きれいに揃えて渡す。
その方が使いやすいはずです。
でも今回渡したのは、そういう紙ではありません。
実際に活版印刷の仕事をして、最後に断裁したときに残った紙です。
だから紙の種類も違えば、大きさも違います。
中には、印刷するときに使った「トンボ」が残っているものもあります。
そんな不揃いな紙を、アトリエまりこあめさんがアクセサリーに合わせながら上手に台紙として使ってくれました。
さらに、自分でエンボッサーを使って紙を少し凹ませるなど、手を加えて使っているものもあるそうです。
私たちのところでは印刷物の外側だった部分が、別の作り手のところへ行くと、今度は商品の一部になる。
同じ紙なのに、使う人が変わると役割も変わります。
トンボが残っているのは、少し恥ずかしい
ただ、実際に使われている紙を見ると、印刷屋としては少し恥ずかしいところもあります。
それが、紙に残ったトンボです。
多色で活版印刷をするとき、私たちは普段、0.1mm単位、それ以下のわずかなズレを見ながら位置を合わせています。
一方で、自社の商品では、あえて少しずらして印刷することもあります。
きっちりと重ねるだけではなく、そのわずかなズレも活版印刷らしい表情の一つとして見せたいと思うことがあるからです。
でも、そんな事情を知らない印刷の知識がある人が端材だけを見たら、
「ちょっと、ずれとるやん。」
と思われるかもしれない。
それは、印刷屋としてちょっと寂しい。
もう一つあります。
活版印刷で使う樹脂版(※1)に細いトンボをつくると、たくさん印刷しているうちに版が負けて、トンボの線が少しへにゃっとしてしまうことがあります。
普段なら、その部分は最後の断裁でなくなります。
完成した印刷物には残らないので、製品を見ても分かりません。
ところが今回は、その「いつもなら切り落としているところ」が台紙になります。
今まで人に見せることのなかったところまで見られてしまう。
ちょっと恥ずかしい。
でも同時に、それは本当に印刷の現場から出てきた紙である証拠でもあります。
きれいに整えた新品の紙を渡すのとは、少し違う面白さがあるのかもしれません。
(※1 通常は主に金属版を使用します。)
捨てられるはずだった素材から、アクセサリーをつくる
アトリエまりこあめさんがつくっているのは、アップサイクルアクセサリーです。
摘果といって、生育の途中で間引かれたみかんや、岩国れんこんなど、そのままでは使われにくい地域の素材をレジンで固め、アクセサリーへと生まれ変わらせています。
そんなものづくりをしている人だからこそ、印刷会社で出る紙の端にも目を留めてくれたのかもしれません。
みかんやれんこんは、アクセサリーになる。
活版印刷の紙の端は、そのアクセサリーを支える台紙になる。
役割は違いますが、どちらも「まだ使えるもの」に別の使い道を見つけています。
紙は、切ったところで終わりではなかった
今回の話で嬉しかったのは、単純に端材を使ってもらえたことだけではありません。
紙屋さんから仕入れた新しい紙を、そのまま台紙として販売することもできました。
でも、アトリエまりこあめさんが使ってくれたのは、実際に私たちが活版印刷をして、その仕事の中で残った紙でした。
種類も違う。
形も違う。
トンボが残っているものだってある。
それを「揃っていないから使えない」とするのではなく、自分たちの商品に合わせて上手に使ってくれた。
それが嬉しかったです。

私たちにとっては、印刷物をつくり終えた時点で役目を終えた紙でした。
でも、紙そのものの役目まで終わっていたわけではなかったんですね。
その紙の続き
印刷をしている以上、これからも断裁した紙の端は出てきます。
すべての端材を何かに使わなければいけない、とは思っていません。
これまで通り、リサイクルに回すものもあります。
ただ、アトリエまりこあめさんがこれからも必要としてくれるなら、またお渡ししたいと思っています。
ほかにも、普段からつながりのある方のものづくりの中で、
「この紙、使えるかもしれない」
ということがあれば、使ってもらうのもいい。
活版印刷のために選んだ紙が、印刷会社で一度役目を終えて、別の作り手のところでもう一度ものづくりの一部になる。
今回、アトリエまりこあめさんに見せてもらったのは、そんな「紙の続き」だったように思います。
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