2026/11/02
印刷というと、紙にインキで色をつけることを想像する方が多いのではないでしょうか。
しかし活版印刷には、インキを使わずに文字やイラストを表現する方法があります。
それが「空押し」です。
紙に凹凸をつけるだけなのに、文字やイラストが浮かび上がるように見える。しかも、見る角度や光の当たり方によって、その表情が変わります。
今回は、そんな空押しの仕組みとよく似た言葉である「デボス」「エンボス」の違いについてご紹介します。
名刺やショップカード、パッケージなどで凹凸のある印刷を検討されている方にも、参考にしていただければと思います。
空押しとは?インキを使わない印刷表現
空押しとは、インキや箔を使わずに、版や型で紙に圧力を加え、凹凸によって文字やイラストを表現する加工のことです。
活版印刷では、版を紙に押し当てることで、紙の表面に凹みをつけることができます。空押しは、この仕組みを利用し、インキを使わずにデザインを表現する方法です。
例えば、白い紙にロゴを表現したい場合。
白いインキで印刷する方法もありますが、空押しなら紙そのものに凹凸をつけることで、インキを使わずにロゴを表現できます。
紙の色を変えることなく、光の当たり方によって文字やイラストが浮かび上がるように見えるのが特徴です。
紙本来の色や質感を活かした、控えめでありながら存在感のある仕上がりになります。
色がないのに、なぜ文字やイラストが見えるの?
空押しの面白いところは、インキを使っていないのに、文字やイラストが見えることです。
その理由は、光と影にあります。
平らな紙に凹凸ができると、凹んだ部分の縁や側面で光の当たり方が変わります。
すると、わずかな明暗の差が生まれ、文字やイラストの輪郭を認識できるようになります。
紙を傾けてみると、それまで目立たなかったデザインがはっきり見えることもあります。
反対に光の当たり方によっては、ほとんど見えなくなることもあります。
つまり空押しはインキの色ではなく、紙の形状と光によってデザインを見せる表現なのです。
デボスとエンボスは何が違う?
紙に凹凸をつける加工には、「デボス」と「エンボス」という二つの表現方法があります。
どちらも紙に立体感を生み出す加工ですが、大きな違いは凹凸の方向です。
デボスは、紙の表面を凹ませる加工。
エンボスは、紙の表面を浮き上がらせる加工です。
例えば、ロゴを紙に刻み込んだような仕上がりにしたい場合はデボス。
反対に、ロゴを紙の表面から浮き上がらせ、立体感を強調したい場合はエンボスが適しています。
活版印刷では、版を紙に押し当てることでデボスの表現ができます。また、専用の型などを使用することで、エンボス加工を行うことも可能です。
それでは、それぞれの加工について詳しく見ていきましょう。
デボス加工とは?紙を凹ませる加工
デボス(Deboss)とは、版や型を使って紙の表面を凹ませ、文字やイラストを表現する加工です。
紙にデザインが刻み込まれたような仕上がりになり、指で触れると凹みを感じることができます。
凹んだ部分には光の当たり方によって陰影が生まれ、インキを使わなくても文字やイラストを認識できます。
活版印刷で行う空押しも、紙を凹ませる場合はデボスの一種です。
一方、インキを使った活版印刷でも、印圧を加えることで紙に凹みをつけることができます。
この場合は、インキの色と紙の凹凸を組み合わせた表現になります。
ただし、活版印刷は必ずしも紙を深く凹ませるものではありません。
印圧を抑えて紙の変形を少なくすることもでき、デザインや紙の種類、求める仕上がりに応じて調整します。
エンボス加工とは?紙を浮き上がらせる加工
エンボス(Emboss)とは、紙の表面を盛り上げ、文字やイラストを立体的に浮き上がらせる加工です。
一般的には、凹型と凸型を組み合わせ、その間に紙を挟んで圧力を加えることで立体的な形状をつくります。
デボスが紙に刻み込むような表現なのに対し、エンボスは紙の表面からデザインが浮き出るような仕上がりになります。
例えば、パッケージのロゴや本の表紙などで、文字や模様が立体的に盛り上がっているものが代表的です。
エンボス加工もインキを使わずに表現できるほか、印刷や箔押しと組み合わせることで、さらに印象的な仕上がりにすることもできます。
なお、エンボス加工は活版印刷機を利用して行うこともできますが、通常の活版印刷とは異なる型や加工方法が必要になる場合があります。
印刷を依頼するときは、仕上がりのイメージを伝えることが大切
デボスとエンボスは、どちらが優れているというものではありません。
紙に刻み込まれたような落ち着いた印象にしたいのか、それとも紙から浮き上がるような立体感を出したいのか。
目指す仕上がりによって、適した加工方法は変わります。
印刷を依頼する際には、「紙を凹ませる空押し(デボス)」にしたいのか、「紙の表面を浮き上がらせるエンボス」にしたいのか、希望する仕上がりを具体的に伝えることが大切です。
デボスとエンボス、どちらを選べばいい?
どちらが優れているというものではなく、目指す仕上がりによって選び方が変わります。
例えば、ロゴを紙に刻み込んだような、落ち着いた印象にしたい場合はデボスが候補になります。
一方、ロゴを立体的に浮き上がらせ、存在感を強調したい場合はエンボスが候補になります。
名刺やショップカードのように、手に取ってもらう印刷物では、見た目だけでなく指先で感じる質感も大切です。
また、紙の種類や厚さ、デザインの細かさによって、向いている加工方法も変わります。
どちらの加工でも、希望する仕上がりに合わせて紙やデザインを検討することが重要です。
凹凸加工は、紙の厚さによって仕上がりが変わる
空押しやデボス加工では、紙の種類や厚さが仕上がりに大きく関係します。
紙は細かな繊維が絡み合ってできています。
版を押し当てると、紙の繊維が圧縮されたり、変形したりすることで凹みが生まれます。
そのため、柔らかく圧縮されやすい紙と、硬く密度の高い紙では、同じ版を同じように押しても仕上がりが異なります。
一般的に、クッション性のある紙は凹みを表現しやすい傾向があります。
ただし、厚い紙であれば必ず深く凹むというわけではありません。
紙の密度や繊維の性質、版の形状、印圧なども関係するためです。
また、細かな文字や線が密集したデザインでは、強く押しすぎると線の間がわかりにくくなることもあります。
空押しは、ただ強く押せばよいという加工ではないのです。
裏面にも凹凸が出ることはある?
名刺やショップカードの加工を考えるとき、意外と見落としやすいのが紙の裏面です。
デボス加工では、紙の厚さや柔らかさ、印圧によって、裏面にも押し跡や凹凸が現れる場合があります。
一方、一般的なエンボス加工では、表面を盛り上げるために紙を立体的に成形するので、裏面にも対応する凹みが生じます。
例えば、表面に大きなロゴの凹凸加工を施し、裏面の同じ位置に小さな文字を配置した場合。
凹凸の影響によって、文字の印刷や読みやすさに影響が出る可能性があります。
特に両面印刷の名刺では、表面と裏面のデザインを別々に考えるのではなく、一枚の紙として設計することが大切です。
実際の制作事例|空押しを使った名刺
グラフィックデザイナー「mano 中津菜美子」様の名刺をご紹介いたします。
使用した紙は、特AクッションF 0.6mm。
似顔絵のイラストには空押しを使用し、文字にはインキを使った活版印刷を組み合わせています。
似顔絵はインキを使わず、紙の凹凸によって表現しています。
一方、文字はインキの色によって視認性を確保しています。
色を使う部分と、あえて色を使わない部分。
この二つを組み合わせることで、それぞれの表現が引き立つ名刺になりました。
また、今回の名刺では印圧にも工夫をしています。
似顔絵の空押しには、しっかりと凹みをつけるハードプレスを使用。
裏面の印刷では、表面への影響を抑えるため、印圧を弱くして仕上げています。
同じ一枚の名刺でも、どこを凹ませるのか、どこは凹ませすぎないのかを考えながら印刷しています。
紙に凹みをつけることだけが、活版印刷の技術ではありません。
必要な部分に、必要な印圧をかけることも大切な技術です。
実際の仕上がりについては、制作事例でもご紹介しています。
空押しを依頼するときに知っておきたいこと
空押しを使った印刷物を制作したい場合、事前に考えておくとよいポイントがあります。
まず、デザインを凹ませたいのか、浮き上がらせたいのか。
次に、凹凸をどの程度目立たせたいのか。
そして、裏面への影響がどの程度許容できるのか。
特に名刺やショップカードでは、両面のデザインや紙の種類によって、適した加工方法が変わります。
また、細かな文字やイラスト、広い面積のベタなどは、希望する凹凸を再現できるか事前に確認が必要な場合があります。
「できるだけ深く凹ませたい」「紙の質感を残したい」「裏面には影響を出したくない」
このように、仕上がりの希望を具体的に伝えていただくことで、紙や印刷方法を検討しやすくなります。
まとめ 色を使わずに表現する、活版印刷の面白さ
空押しは、インキを使わず、紙の凹凸によって文字やイラストを表現する方法です。
デボスは紙を凹ませる加工、エンボスは紙を浮き上がらせる加工。
どちらも紙に立体感を与える技法ですが、仕上がりの印象や加工方法は異なります。
そして、その仕上がりを左右するのは、版や型だけではありません。
紙の厚さや柔らかさ・デザインの形状・印圧など、さまざまな要素が関係しています。
紙を凹ませるだけなのに、考えることは意外と多いものです。
だからこそ、活版印刷には面白さがあります。
うみよこ活版のネコでは、紙やデザイン、用途に合わせて、活版印刷ならではの表現をご提案しています。
次週の活版印刷コラムは?
今回は、インキを使わずに表現する「空押し」についてご紹介しました。
では、反対に「透明に近いインキ」を使って印刷すると、どうなるのでしょうか。
実は、透明だと思っていたインキにも、わずかな色味の違いがあります。
次週は、ニスインキとメジュームインキを実際に印刷して比べた、ちょっと不思議な実験についてお話しします。
同じイラストでも、どんな違いが生まれるのか。
どうぞお楽しみに。
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